肥ひ後ご・薩摩さつまの国界は戦国期から織豊期にかけて変動した。

純粋に地形だけを考えた場合、長島は天草諸島の一部である。『続日しょくに本ほん紀ぎ』の宝ほう亀き9年(778) 11月13日の記事には「肥後国天草郡西仲島」としてあらわれ、このとき唐から帰国途中に嵐に遭遇、漂流していた遣唐使船の一部が当地に流れ着いた。 漂着地点の唐から隈くまには現在、記念碑が建っている。

また鎌倉末期にあった「山田野」「河床」とほか散在の地頭職を巡る争いでは、裁許を記した元げん徳とく元年(1329) 11月29日付『鎮ちん西ぜい下知状げじじょう』^※1に「長嶋山田野」、同年12月5日付および同月25日付『鎮西御教みぎょう書しょ』^※1に「肥後國天草嶋山田野」、決定を実行に移そうとした『肥後国守護代藤原秀種請うけ文ぶみ』^※2に「肥後国天草山田野」「長嶋山田野」とあって、長島が肥後国天草郡の一部として扱われ、肥後国守護代の支配下に置かれていたことがわかる。なおこの「山田野」は「山やま門ど野の」(近世 山門野村・下山門野村) と推定され^※3、「河床」は「川床」(近世 川床村) にあたる。

長島は戦国期を迎えるころには薩摩国勢力の圧迫を受けるようになった。そして永禄8年(1565) 出水いずみの薩州島津氏 (忠兼、前当主・実久の弟、現当主・義よし虎とらの叔父) に攻略され、天てん正しょう9年(1581) までに島津義虎の支配が確立された^※3。

一方、天正15年(1587) 3月、豊臣秀吉は大軍を率いて九州への侵攻を開始した。島津義よし久ひさ (本家) は弟の義よし弘ひろらと薩摩・大おお隅すみ・日向ひゅうがの 3国を領国として統一して、さらに版図を広げていた。しかし大軍を前に総崩れとなって撤退を余儀なくされ、5月8日までに降服した。これを受けて秀吉は、義久に薩摩国、義弘に大隅国 (ただし肝きも付つき郡と北ほん郷ごう時とき久ひさ旧領を除く) を安堵した^※4。このとき近世の国界が確定し、長島は薩摩国の一部として把握されるようになったと考えられる。

義久宛の判はん物もつ・義弘宛の朱印状とも郡や村の詳細な一覧は示されていないが、文ぶん禄ろく3〜4年(1594〜1595) に行われた^※5薩摩国の総検地までに変動は確認できない。また長島を支配する薩州島津氏の忠ただ辰とき (義虎の子) は先行して 4月27日に^※6降服したが、その支配にあった長島には早くも 4月中に秀吉から 3箇条の定さだめ書がき^※7が発布され、これに「薩摩国長島」とある。なお文禄2年(1593) 忠辰は不手際から所領を没収され、旧領は文禄4年(1595) 4月に宗義よし智としに与えられた。この知行目録^※8は総検地後であって村単位で石高が示され、長島の各村は「薩摩国出水郡内」として把握されている。その後、慶長4年(1599) 長島を含む出水郡は義弘に与えられて島津氏 (本家) に戻り^※3、近世を通じて薩摩藩が支配した。

長島の村々は下記のとおり:

近世 薩摩国 出水郡 長島郷

❉1:	『島津家文書中の「他家文書四十四通」について』(1988, 晋、西南地域史研究 6) 所収。
❉2:	『苓北町史 史料編』(1985) 所収。
❉3:	『東町郷土史』(1992) など。
❉4:	天正15年(1587) 5月9日付『豊臣秀吉判物』(義久宛)・5月25日付『豊臣秀吉朱印状』(義弘宛)、『鹿児島県史料 旧記雑録 後編2』(1982) 所収、および『豊臣政権下における九州再国分について』(1983, 桑田, 九州史学 第78号)。
❉5:	『鹿児島市史 第1巻』(1969)。
❉6:	『川内市史 上巻』(1976) では 4月24日。同史は行軍の状況をわかりやすく表にまとめているが、それによれば出水に先鋒が入ったのが 4月24日で、秀吉が到達したのは 27日。実質的には 24日、正式には 27日とするのが正しいかと思われる。『九州御動座記』でも 4月27日。
❉7:	『豊臣秀吉定書』、『鹿児島県史料 旧記雑録 後編2(1982)・『同 旧記雑録拾遺 地誌備考4』(2017) 所収。
❉8:	『薩摩国出水郡内知行方目録』、『東町郷土史』(1992)・『豊臣氏九州蔵入地の研究』(1983, 守山) 所収。